2024年05月05日

F/「カルメン」メリメ

「カルメン」メリメ

F/「カルメン」メリメ


Prosper Mèrimèe(1803~1870)、パリのブルジョワ家庭の一人息子として生まれる。父は画家であり化学者。19歳のときスタンダールと知り合い、以降、親交を結ぶ。30歳のとき、ジョルジュ・サンドと恋愛に走るが、失敗する。代表作にこの『カルメン』のほか『エトルリアの壺』『コロンバ』など。博学多才、外国語にも通じ、レジョン・ドヌール勲章を2度授与されるなど高く評価されたが、生涯、家を持つことはなかった。晩年にはプーシキン、ツルゲーネフなどロシア近代文学の翻訳と紹介につとめた。
自由か、それとも愛か…
スペイン旅行中の、フランスの考古学者の「私」が、指名手配され追われている盗賊ドン・ホセと出会う。盗賊とうすうすわかっていたが、私は何気ない態度でこの男と食事したり葉巻たばこを与えるなどして近づき、同じ宿で一夜を過ごす。ドン・ホセを追う騎兵隊が宿に迫り踏み込むのを知り、ホセを逃亡させてやる。
のちに、私はカルメンと出会い、金時計をスリ取られる。この魅惑の女が私とホセとの接点になるのを知るのは、獄に捕われ死刑を待つ身になっているホセを訪ねたとき。このときにホセから聞いたという形式で進められる物語。
バスク地方出身の士官(騎兵伍長)のドン・ホセ。セビリアのタバコ工場の警備にあたっていたとき、カルメンと運命的に出会う。仲間を傷つけたジプシー女で、よくも悪くも評判になる女。その魅力と熱情に惹かれ、愛に溺れる相手の情人を次つぎに殺したり、密輸業者にさせたり無法者の仲間や盗賊の群れに身を投じさせたりして破滅させる。そのスペイン的な激情と燃えるような情熱に彩られたストーリィ。
クライマックスの会話から。「わたしたちのあいだでは、すべてがもう終わってしまったのよ。あんたはわたしのロム(夫)だから、自分のロミ(妻)を殺す権利があるわ。だけどこのカルメンはいつだって自由な女よ。カリ(ジプシー)として生まれたカルメンはカリとして死んでいきたいのよ」「それほどリュカス(闘牛士・ピカドール)が好きなのか?」「そうよ、わたし、あの男に惚れたのよ。あんたに惚れたと同じように、一時はね。でも、あんたのときほどではなかったかもしれない。いまわたしはあんたに惚れた自分を憎んでいる」
自由をとるか、それとも愛をとるか……。それは近代人の大きな宿命的なテーマだろう。このテーマのなかで生じる悲劇が、純粋な形で、何の衒いもなく、ぐいぐいと描かれていく。ボヘミアン(自由人)の概念と宿命の女の概念とを結びつけている物語世界。ジプシーの自由奔放さと不可解で隠微な犯罪的なイメージ、それとスペインのエキゾチックな風光とを巧みに取り交ぜれていることがわかる。それは、20世紀に入り、自由を求める知識層と新しい奔放な若い世代に圧倒的に迎い入れられ、神話的な作品とされるようになった。
ビゼーのオペラで、一躍、世界へ
メリメの小説は簡明にしてストレート、構成がしっかりしていて話がテンポよくまっすぐ展開する。『カルメン』の訳者・堀口大学はメリメの文学をこう語っている。――異常な性格と異常な事件を取りあげるのがこの作家の好み。点描派風の簡単なタッチを用い、風物や人物を明快に描きだすのがこの作家の文章の妙。歴史および考古学上の知識に裏づけられたこの作家独特の、濃厚にして正確な地方色の表現と、きわめてロマネスクな切迫した事件を描きながらも、かつ古典的で冷静な落ち着きを守りつつ、また傍観者としての態度も失わない潔癖さがあり、メリメの特徴はことごとくこの一作に集められたかの感がある。――

メリメは1830年に初めてスペインを訪れた。さらに10年後にも再度訪れているが,『カルメン』の素材は最初のスペイン旅行中に得たもの。その旅行中、知り合った別懇の仲のデ・モンチナ伯爵夫人マヌエラから聞いた話。女のために軍を脱走し、嫉妬から人殺しをして郷里を売り、処刑されたひとりの侠賊の話で、相手のその女を、かねてよりメリメが興味を寄せていたジプシーにして作品化したもの。発表当初は批評家たちに完全に無視されたが、のちにビゼーがこれをオペラにすることによって、一挙に世界的に有名なものとなった。

F/「カルメン」メリメ

ジョルジュ・゛ビゼー 
4幕もののオペラ「カルメン」の「ハバネラ」や「闘牛士の歌」「ジプシーの歌」
「花の歌」なとはあまりにも有名。オペラ史のエポックとされている


女に身をあやまって盗賊にまでなったドン・ホセ。救いのない破滅な結末ながら、彼は回心してアメリカへわたり、いっしょに一からやり直そうとカルメンに懇願する。しかし、カルメンは徹頭徹尾、それを拒絶する。一貫して自分の中心軸をずらすことのないこの女の勁さ、そのユニークな個性にふしぎな感動がある。
F/「カルメン」メリメ
オペラの主舞台となるタバコ工場の石版画


F/「カルメン」メリメ


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Posted by 〔がの〕さん at 03:07│Comments(0)名作鑑賞〔海外〕
 
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