2021年08月12日

F/北欧神話の風光≪1≫

北欧神話の風光≪1≫

乳と蜜のさと――神々と古代人の食べもの

F/北欧神話の風光≪1≫
主神オーディン。スウェーデンの画家ローゼンによって描かれたもの
戦争と死の神で、呪術に長け、長い髭をたくわえ、片目がないとされる。


 北欧の神々の世界アスガルドにはワルハラ宮がある。戦いの女神ワルキュリィが、戦いのなかで死んだ勇士をここに運びこみ、魔軍との決戦に備えて武技を練るの目的にする館。ここでは夜ごとに宴会が催され、酒と肉が出された。酒は、宇宙樹ユグドラシルの梢に棲む牝山羊ヘイドルンの乳房からいくらでも出るし、肉は、殺して食しても夜ごとにまた生き返るセーフリムニルという大イノシシの肉があてられた。
 神オーディンが口にするのは、牝山羊ヘイドルンの乳房から出るワインだけで、ほかの食べものは、足もとにいつもいる2匹の狼に与えてしまう。驚くほど少食な神である。その一方、トール神は途方もない大食漢で大酒飲み。巨人ヒュミルのところで2頭の牛の肉をペロッと平らげるし、ある農家での夕食でも2匹の山羊を食べ、8匹の鮭を食べ尽くす場面がある。最強の巨人ウトガルド・ロキとの酒の飲み比べでは、海につながる角杯をあおって、海水の水位が下がるほどに鯨飲し、これが潮の満ち干きの原因ににったというから途方もない。
 原始の巨人ユミルは、アウドムラという巨大な牛の四つの乳房から流れる川のような乳を飲んで育った。このほかにも神々には、蜜酒があったり、これを味わうと若さを保てるという女神イドゥンの青春のリンゴなどがある。デンマークは「乳と蜜の流れるさと」と、古い時代から呼ばれているのはご承知のとおり。

F/北欧神話の風光≪1≫F/北欧神話の風光≪1≫
横浜港大埠頭の近くのスカンディアというレストランで見出した彫り物。
デンマークの神話を題材にした飾りもの。


 紀元1世紀、ローマの史家タキトゥスによって書かれた『ゲルマーニア』でも、珍しい食べもの、飲みものが紹介されている。ビールの類、葡萄酒、蜜酒などをゲルマンの民は愛飲するが、飲酒に節操がなく、武器によるよりもこの悪癖によって征服されるだろうと著者がいっているほど。凝乳(チーズ)や穀物(一種のパンもあった)、野生の果実、新しい生まの獣肉cruda caroや魚(燻製にすることも知られていた)などもあった。バターもあったが、それはふつうにはからだに塗るもので、それを食用にしたのは富貴なもののみだったという。調味料、香辛料では、塩(岩塩)があり、紀元8年に岩塩坑をめぐるゲルマン民族のあいだの抗争が歴史に記録されている。(つづく)

同じカテゴリー(名作鑑賞〔海外〕)の記事画像
F/スタインベック「二十日ネズミと人間」
F/S.モームの憂鬱
F/「カルメン」メリメ
F/貧しき人びと ドストエフスキー
F/静かなるドン ショーロホフ
F/「カモメのジョナサン」R.バック
同じカテゴリー(名作鑑賞〔海外〕)の記事
 F/スタインベック「二十日ネズミと人間」 (2025-01-23 16:57)
 F/S.モームの憂鬱 (2024-11-16 00:24)
 F/「カルメン」メリメ (2024-05-05 03:07)
 F/貧しき人びと ドストエフスキー (2024-02-25 03:31)
 F/静かなるドン ショーロホフ (2023-12-25 14:14)
 F/「カモメのジョナサン」R.バック (2023-07-17 16:45)

Posted by 〔がの〕さん at 13:25│Comments(0)名作鑑賞〔海外〕
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
F/北欧神話の風光≪1≫
    コメント(0)