2021年03月11日

C/バーバ・ヤガー②

バーバ・ヤガーとロシアの妖精たち②

C/バーバ・ヤガー②


民話はロシアの宝もの

 森の支配者といえば、ロシアのなかでいちばんのおなじみは、レーシー。この森の精霊は、森を通るひとを脅して追い出すか、道を迷わせて、とんでもないところへ連れ込んでしまう。ひとをさらうこともある。これはロシアの北にも南にもたいへん広く分布していて、バーバ・ヤガーはこのレーシーから変化して生まれたと考えるひとも少なくありません。
 実際、ロシアの北のほうは、まさに森の国です。針葉樹が暗く単調にどこまでもつづき、うっかり迷い込んだら方角もわからず、出られなくなってしまうこともあるといわれます。湿地には底なし沼も多い。熊お狼などの獣たちの目がものかげから光っています。盗賊たち、あるいは脱走兵の秘密の隠れ家もあります。こんなおそろしい自然ですから、人びとはこころをふるわせながらいろいろと想像をめぐらせます。
 そうです、妖怪やふしぎな化け物たちは人間の想像力が生みだしたものです。それそれの国の自然風土と深い関係をもちながら、世界のどの国、どの民族にも独自の妖精たちがいます。日本でいったら、きみ、どんなんのを知ってる? ほら、アマンジャクがそうだろう。山姥(やまんば)や天狗、座敷童子、枕返し…なんてのもいるし、海坊主、小豆洗い婆などもその仲間だね。

C/バーバ・ヤガー②

 ロシアには、森のなかに、さきほどのレーシーや山親爺ゴールヌイがいるし、水のなかにはルサルカやヴォジャノイ、穀物の乾燥小屋にはオビンニク、そして家のなか、とくにペチカのうしろや煙突のわきにはダマヴォイという妖精がよくいます。ほかにももっともっといて、それぞれ名前をもっています。北欧で妖精のことを「トロル」とひとつに呼んでしまうのとはずいぶん違いますね。
 こうしたものに想像力を刺激されて、ロシアには世界のどの国よりもたくさんの民話が生まれました。この民話こそロシア最大の宝ものだと言ったひともいます。
 トルストイが民話から『イワンのばか』ほか、たくさんのすばらしい物語をつくっていることは、もうよく知っているよね。プーシキンも『サルタン王の話』など、珠玉の民話詩を書いています。ほかにも、その民話や伝説から名作を書いている大文豪がいっぱいいますよ。
 たとえば、ゴーゴリ(1809~1852)。『外套』という名作を書き、近代ロシア文学の父といわれるこの文豪の『ディカーニカ近郷夜話』には、ウクライナ地方を舞台にして活躍する妖精や悪魔が生き生きと書かれています。このなかの『イワン・クパーラの前夜』には、もうおなじみのバーバ・ヤガーとその奇妙な小屋の話もちゃんと出てきます。この作家は“ヴィー”という、これもまたへんてこな妖怪、地中に住むおっそろしい老人のことなども書いています。チェーホフという作家も知っているでしょ。有名な『ワーニャ伯父さん』、あの作品のもとになっているのが『森の精レーシー』。ね、ロシアの森は創造力の源泉でもあったんだね。おもしろいから、きみもぜひ読んでごらんよ。(以下、つづく)

※菅野耿・再話『森の魔女 バーバ・ヤガー』(①2019.7.22、②同8.29所収)を参照ください。



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Posted by 〔がの〕さん at 14:26│Comments(0)児童文学
 
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