2019年06月23日

F/プロメテウス、火の贈りもの<3>

ギリシアの神話と英雄ものがたり
プロメテウス、火の贈りもの<3>

                         再話  菅野 耿


F/プロメテウス、火の贈りもの<3>
パルテノン(アテネ)


コロス: 果たして、プロメテウスの予言がゼウスのもとに届いた。運命の神は、ゼウスが自分の父親クロノスを追放したように、自分もまた自分の子によって追放される運命から免れることはできぬという予言。ヘパイトスからこれを聞いて、ゼウスは怒りに身を震わせた。どうにかしてさだめとされるこの恐ろしい予言から逃れられるか、考えに考えた末、伝令役の速足のヘルメスに用向きを伝え、コーカサスの岩山のプロメテウスのもとへ向かわせた。

ヘルメス: 聞くのだ、プロメテウス、予見するものよ。雷電のぬし、神々の父ゼウスがこうおっしゃっておられる、ただちにそなたのいうさだめとやらから逃れられるすべを明らかに述べよ、とな。さもなくば、ゼウスはさらに苦患に満ちた仕打ちを加えるであろう、いまのままのほうがずうっとましだと思えるほどの苦しみを、な。

プロメテウス: 来たるべきことは必ず来るのだ。秘密はこのわたしだけのもの。この身が自由になるまでは、誰が何といおうと、口にするわけにはいかぬ。わたしがどんな悪いことをしたというのだ。いわれなきゼウスの命令には逆らったが、何ひとつ悪いことをしたわけではない。そんな脅しにはびくともせぬぞ。

ヘルメス: そんなに強がってどうするのだ。わしはこんなふうに言いつかっておる、ゼウスはおぬしにさらなる罰を加える、絶対耐えられぬ罰を、とな。覚えておくがよい、ティタンよ、この罰はおぬしが屈するまでつづくのだぞ。

F/プロメテウス、火の贈りもの<3>
冥府(ハデス)への入口、ギリシアで最も重要な神域のひとつ Eleusis


コロス: こうして、ゼウスは血に飢えた大鷲を毎日差し向け、プロメテウスの胸を食い破り、肝臓をむさぼり食わせた。来る日も来る日もプロメテウスはその痛みに身悶え、苦悶にうめいた。耐えがたい痛み、さらには犯罪者として扱われる不名誉のうずきに。
だが、不死なるものの肝臓は夜ごとにもとに復し、そしてまた翌日には大鷲の口ばしにさらされるのだった。これは数千年にもわたって繰り返された。しかし、遠いとおいある日、やがて救済のときが来る、…そんな運命をプロメテウスは知っていたので。

プロメテウス: わたしはこのような懲罰に値いする何もやってはいない。非力な人間たちに多少ともよかれと思って火を与えた、それだけだ。人間の短い生をわずかなりとも輝かせてやりたいと。そのためにわたしの不死の生は闇に沈むのか。いいや、わたしは決して屈しはせぬ、どこまでも。 (了)

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墓碑




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Posted by 〔がの〕さん at 16:43│Comments(0)名作鑑賞〔海外〕
 
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