F/「青春の詩」ウルマン

〔がの〕さん

2023年04月29日 15:58

「青春の詩」ウルマン



  青春とは臆病さを退ける勇気、
  安きにつく気持ちを振り捨てる冒険を意味する。
      …    …   …
  年を重ねただけでは人は老いない。
  理想を失うとき初めて老いる。


60歳、70歳の透き通った青春 人生の応援歌
サミュエル・ウルマンSamuel Ullman(1840~1924)の詩集『青春とは、心の若さである』の冒頭にある「青春」から。美しい人生へのこの豊かなメッセージをまっすぐ受け取りたいものです。簡潔なことばに凝縮された、あまりにも純粋なひびきを奏でる人生讃歌です。(訳=作山宗久)
この詩人は、もとドイツのヘッヒンゲンの出身。ユダヤ人両親をもつ長男で、のちに11歳のとき一家とともに迫害を逃れてアメリカへ移民、アメリカ南部ミシシッピー河畔の町に暮らしました。1861年に起きた南北戦争では南軍兵士の一員として従軍し、二度負傷、耳が聞こえなくなりました。その後、アラバマ州バーミンガムに移り、金物店を開業、以来事業家として成功します。生涯にわたって敬虔なユダヤ教徒で、社会的弱者である孤児や女性、黒人、労働者を救済する運動に身を捧げた人物。教育家でもあり、ユダヤ教のレイラビ(精神指導者)として精力的に活動、地域社会に大きな貢献をする傍ら、晩年、数篇の詩を書きました。欲なく清廉な生き方を貫いた人です。
 この『青春の詩』はウルマンの70歳台のときに書いたもの。80歳になったのを記念して家族がまとめ、自費出版しました。もともと詩人としては無名でしたが、その真率なことばが評判になり2年後に公刊されました。さらにその2年後の1924年、84歳で惜しまれてこの世を去りましたが、GHQのダグラス・マッカーサーがロサンゼルスでの講演でこの「青春」を引用したことを機に、反響はまず日本に広がり、逆輸入のようにしてアメリカや海外各に浸透、特に財界人のあいだで有名になったといわれます。

  六〇歳であろうと一六歳であろうと 人の胸には
  驚異に魅かれる心、おさなごのような未知への探求心、
  人生への興味と歓喜が
ある。

 難しい時代、ユダヤ人社会に生きた無名の幻の詩人。人種差別の宿業を背負ったきびしい生涯だったはずだが、正義を信じ、平和を愛し、虐げられたものへの限りない慈しみにあふれた幾多の業績をもつ詩人の紡ぎ出すことばは、あくまでも明るく、希望にあふれ、人間の“善”を信じきる気高く純粋なひびきを今日に伝えています。80歳を過ぎたその高潔なこころに広がる透き通った精神風景は、すでに若い活力に満ちた時代を見送ったわたしたちへの、人生の応援歌であり、あたたかく清新なそのメッセージは、胸に奥までひびき、染み入ります。



青  春   (サミュエル・ウルマン)
青春とは人生の或る期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。
優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、怯懦を却ける勇猛心
安易を振り捨てる冒険心、こういう様相を青春と言うのだ
年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる
歳月は皮膚のしわを増すが、情熱を失う時に精神はしぼむ
苦悶や、狐疑、不安、恐怖、失望、こういうものこそ恰も長年月の
如く人を老いさせ、精気ある魂をも芥に帰せしめてしまう
年は七十であろうと十六であろうと、その胸中に抱き得るものは何か
曰く「驚異への愛慕心」、空にひらめく星辰、その輝きにも似たる
事物や思想に対する欽迎、事に處する剛毅な挑戦、小児の如く
求めて止まぬ探求心、人生への歓喜と興味。
人は信念とともに若く 疑惑とともに老ゆる
人は自信とともに若く 恐怖とともに老ゆる
希望あるかぎり若く 失望とともに老い朽ちる
大地より、神より、人より、美と喜悦、勇気と壮大、そして
偉力と霊感を受けるかぎり、人は若さを失わない
これらの霊感が絶え、悲嘆の白雪が人の心の奥までも蔽いつくし
皮肉の厚氷がこれを固く閉ざすに至れば、この時にこそ
人はまったくに老いて神の憐れみを乞う他はなくなる

                           訳詩=岡田義夫

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