C/カニのふしぎ④
生きもの なかよし〔4/少年かがく〕
カニのふしぎ④
4. カニが自分の身を守る知恵
アメフラシ/ヨツハモガニ
慎二/ ふ化したばかりの幼生はほとんど魚たちに食べられちゃうということでしたね。おとなのカニになると、大きなトゲで身をおおっていたり、ヒライソガニは小石や貝がらと見分けがつかない色と形をして敵の攻撃を避けているということでした。アカテガニになると、目につきやすい昼間はあまり活動しないで巣穴にかくれていたり、つかまえようとすると大きなハサミをふりあげて威嚇するポーズをします。それぞれちがったおもしろい知恵をはたらかせて敵をあざむき、自分の身を守りながら必死に生きているんですね。
博士/ 生物の本能なのか、じつにさまざまな忍術を身につけていますね。ソデカラッパというカニも、じっとしていれば岩のかけらと見分けがつかないし、思いのほか早く這いまわるのですが、そのすがたはどう見ても小石がころがっているようにしか見えない。敵が近づくと煙幕をはって逃げるアメフラシなんかも。いっぽう、ハサミをふりあげて敵をおどす、攻撃的で気のあらいベンケイガニのようななかまもいる。動きのにぶいオウギガニは、つかまえるとハサミも足もちぢめてジッと動かず、死んだふりをしています。
香織/ はさんだハサミをそのまま切りはなして逃げるカニもいますね。
博士/ そうそう。アカテガニやショウジンガニのなかまがそうですね。でも、心配ごむよう。失ったハサミや足は、脱皮するときにまたちゃんと生えてくるんですよ。スナガニやオサガニのなかまとなると、ひじょうに臆病で、走るのも早い。長い柄のさきに昆虫と同じ複眼の、たいへん視力にすぐれた目をもっています。で、砂や泥にもぐって身をかくし、そのアンテナのような目で外の様子をうかがっています。アンテナというよりは潜望鏡に近いかな。だって、20メートル以内なら周囲360度、どんなものの動きも見のがさずキャッチし、危険とわかればサッと巣穴にかくれてしまう。
香織/ ほんと、必死に生きているのね。
モクズショイ/ヘイケガニ
博士/ もっと傑作なのは、モクズショイ。足といわず甲羅といわず、全身いたるところに海綿や藻くずをくっつけてカモフラージュするんです。ツノガニ、イソクソガニ、イッカクガニもそれと同じ習性をもっています。それらどのカニも動きはいたって緩慢。甲羅は西洋ナシのような形をしていて、その表面や足にはトゲトゲの毛が生えていますよ。マジックテープのようになったその部分に、海綿やごみ、藻くずなどをびっしりと巻きつける。ほら、磯の海藻のあいだで見ることのできるヨツハモガニも、この擬装ガニのなかまといっていいでしょう。見ていると、もう、じれったくなるほど、なかなかくっつかない。海藻の切れ端を噛んで、噛んで、また噛んで、ようやく海藻にヌルヌルの汁が出てきて、どうにかやっと背中にくっつく。
カイカムリ
慎二/ ぼくは、海藻やごみではなく、貝がらを背負うカニを見たことがあります。
博士/ ヘイケガニやカイカムリがその忍者ガニのなかまです。このカニのうしろの2対の足は上向き、つまり背中のがわについていて、歩行には役に立たず、ひたすら背中の貝を背負うためにのみ使われます。短いその足の先を貝がらのへりにかけて、たいていは砂にもぐっているか、餌を求めて出歩くときも、その貝がらを背負ったまま。用心ぶかいんだね。
香織/ カニの秘密、生命のふしぎをたくさん教えていただきました。
博士/ カニのふしぎについてはまだまだ語りきれません。どうして横歩きをするのか、水のなかをどう泳ぐのか、どうして泡をふくのか、なんのために砂だんごをつくるのか、どんなごちそうが好みか・・。あるいは、音をだすカニもいます。それがなんのためなのか。ナゾはまだまだいっぱいあります。磯や潮だまりに行って、まず自分の目でしっかりカニを観察し、考えてみてくださいね。
慎二・香織/ はい。ありがとうございました。(了)
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